東京・銀座の銀座メゾンエルメス フォーラムでは、ブリュッセルと東京にある二つのエルメス・ギャラリーの協働によるグループ展『スペクトラム スペクトラム (Spektrum Spektrum)』が2025年3月20日(木・祝)から6月29日(日)まで開催しているのでメモしておきます。(photo:銀座メゾンエルメス)
本展は、ブリュッセルにあるラ・ヴェリエール (La Verrière)にて開催された「Spektrum」(2024年5月16日~7月27日)を鏡のように映し出しながら、東京の銀座メゾンエルメスフォーラムで、新たなナラティブの構造を重ね合わせてゆく対話の中で生まれました。
タイトルである《スペクトラム》とは、ドイツ語表記によるスペクトル (Spectrum)で、物理的な現象の分布や範囲 (光学や音響に用いられるスペクトルなど)を表すと同時に、亡霊や幻視といった超自然的な存在や、また比喩的に扇子を意味するなど、広い射程とグラデーションを持つ言葉です。
ベルリンを拠点とするエマニュエル・カステラン氏の拡張的個展として展開したブリュッセルから、本展「スペクトラム スペクトラム」では、《スペクトラム》という言葉に含有される振れ幅や共鳴を鏡のような道具として用いながら、展覧会を一つの小説のように捉え、真実と虚の〈あいだ〉 にとどまることのできる居場所として、密やかな室内のナラティブを生み出そうとするものです。
モンタージュを思わせる切り込みのあるキャンバスに人物像を描くエマニュエル・カステラン氏は、マルグリット・デュラス氏などのヌーヴォー・ロマンに影響を受け、舞台や映画のセットのような空間を立ち上げます。セラミックを用いるヨハネス・ナ―ゲル氏は、鮮明な発色や、非対称、不調和、表面の粗さや滑らかさを放つ壺(器)で、異なる次元を掘り出し、ヴァルター・スウェネン氏の絵画は、謎めいた暗号を投げかけます。映像原理を用いて、時空の振れ幅を可視化させる津田道子氏、器やスプーンなどのオブジェの凹面に、エロテックな幻想を宿しつつ結界をももたらす川端健太郎氏のオブジェ、ユーモアに満ちた水の亡霊を路上にしかける題府基之の写真、そして輝くようなパステルの色彩を用い、現実を装飾へと昇華させるマリー・ローランサン氏。それぞれの作品が不可避に関わり合い、映し合うなかで、スペクトラムは反復し、その姿や幻影を現わしてゆくでしょう。
ラ・ヴェリエールのあるブリュッセルを拠点に活動したマルセル・ブロータース氏 (1924-1976)は、独⾃のアイロニーと詩を通じて、制度やアートの虚構化を試み、現代のアーティストにもインスピレーションを与え続けています。氏にとって、展覧会という形式は常に批判の道具であり、同時に、場を虚構化し、真実と虚の〈あいだ〉 にある場所に留まる実践でもありました。
加速する情報社会のコミュニケーションにおいては、真実や事実という言葉を使うことは、ますます難しくなっています。だからこそ、本展では、ブロータースの越境的な大胆さやユーモアに倣い、7名のアーティストの真実と反射、逆転、持続、幻想、心霊現象などの〈あいだ〉にある場所を意図的に登場させ、鑑賞者の身体を通じた作品とのナラティブの形成を、信頼の可能性のひとつと考えるのです。
なお、会期中には関連イベント、会場スタッフによるガイドツアーも実施されます。
会期:2025年3月20日(木・祝)~6月29日(日)
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム 8・9階 (map)
開館時間:11:00~19:00
休館日:水曜日、ただし4月30日(水)は開館
入場料:無料
問い合わせ:Tel.03-3569-3300
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