クリスチャン・ヒダカ&タケシ・ムラタ展、銀座メゾンエルメスで開催

東京・銀座の銀座メゾンエルメス フォーラムでは、クリスチャン・ヒダカ氏とタケシ・ムラタ氏の二人展『訪問者』が2022年10月21日(金)から2023年1月31日(火)まで開催しているのでメモしておきます。(photo:銀座メゾンエルメス)

ヒダカ氏とムラタ氏は、名前が示すように日本の血をひきながらも、英語、米語圏の文化の中で育ちました。そのまなざしは、日本を拠点としている私たちの文化や言語へのアプローチとは、ある一定の距離を持った訪問者のものであり、またそれ故に、私たちのまなざしをも彼ら固有の世界への訪問者へと変えるものでもあります。ここでは、タイトルである「訪問者」の視点とともに、二人のナラティブが作り上げる世界を散策し、絵画やCG画像、映像などの中で反響するハイブリッドなリアリティについて考察してみます。

クリスチャン・ヒダカ氏は、絵画を通じて、劇場や建築、西洋の絵画史への参照を特徴とした制作を続けています。特に、ルネサンスの思想や芸術への強い憧憬は、遠近法や幾何学的な空間記述といった科学的な技術への着目だけでなく、異教や魔術といった古代思想との関連も探求のテーマとなっています。近年は、絵画と劇場の類似性をだまし絵のような入れ子式の構造へと発展させ、古今東西の様々な要素が共存する奇妙な宇宙を描き出しています。本展では、空間をシンメトリーに等分し、ピカソのアルルカン、フラアンジェリコのディテール、スカルパのフレーム、カービーのダイアグラムなどが反復する時空を超えた不思議な散策を、並行する戯曲のように提案します。

一方、タケシ・ムラタ氏は、主にデジタル・メディアを用いて、映像作品や立体作品などで独自のリアリズムを追求してきました。ムラタ氏にとって、現実とは流動的なもので、分解、溶解、消滅、オーバーラップといったCGI技術の「ディゾルヴ」に似たものであるといいます。初期のアニメーションであるゾートロープや、オンラインで手に入るDIYのチュートリアルなどから作られたCG画像などは、人工的なモノたちは古典的なモチーフをまといながらささやかな倦怠感を醸し出しています。ムラタ氏は、本展に際し、最新の技術であるWeb3.0やNFTによってもたらされるメタ世界への興味から、バスケット・ボールをする「ラリー」という犬の映像作品を制作しました。液体シミュレーターでレンダリングされたラリーは、彫刻のように見えますが、メタ世界にしか存在しない、ヴァーチャルなムラタの自画像でもあります。

ヒダカ氏とムラタ氏の生み出すそれぞれの世界は、ともにハイブリッドな技術を用いながら、私たちがアートの中に希求する虚構性を巧みに用い、現実と並行した異なる次元のリアリティへと私たちを誘います。

なお、本展開催期間中、展覧会の背景やそれぞれの作品について、フォーラム担当者が解説するギャラリーツアーが行われる予定です。

クリスチャン・ヒダカ氏は1977年、野田市生まれ。現在はロンドンを拠点に活動。新しい絵画形式の探究として、自身の複雑な心象風景を、異質な時間的・空間的構造が衝突する親密な連鎖を生む論法を用いて描き出す。西洋のキアロスクーロ(明暗法)と東洋の斜投影法を組み合わせたハイブリッドな空間構造「Eurasian」を、2つの伝統文化を融合させる手法で、絵画のみならず壁画制作も合わせて展開しています。

タケシ・ムラタ氏は1974年シカゴ生まれ。現在、LAを拠点に活動。動画ファイルの圧縮時に発生するエラーを用いて視覚的効果を与えるグリッチ・アートの先駆者として知られています。CGIをイメージ・メイキングやデジタル・アフターライフ(イメージに形や動きを与えること、死後もデジタルに生き続けること)のメディテーションの過程ととらえ、アニメーション、映像、CGIからNFTまで様々なデジタル・メディアや技法を駆使しながら、独自のリアリズムを追求しています。

アーティスト・レジデンシ―10周年記念展「転移のすがた」
会期:2022年10月21日(金)~2023年1月31日(火)
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム 8・9階 (map)
開館時間:11:00~19:00
休館日:不定休 ※エルメス銀座店の営業時間に準ずる
臨時休館日:11月28日(月)、12月8日(木)
入場料:無料
問い合わせ:Tel.03-3569-3300

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