東京・恵比寿の東京都写真美術館では、ポルトガルを代表する映画監督ペドロ・コスタ氏 (1958年–)による、日本最大規模で、東京では初めてとなる美術館での個展『ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ』を2025年8月28日(木)から12月7日(日)まで開催しているのでメモしておきます。(photo:東京都写真美術館)
コスタ氏は、2018年にポルトのセラルヴェス美術館で開催された「Companhia (コンパニア)」(ポルトガル語で「寄り添う」および「仲間」の意)展や、2022年から2023年にかけてスペイン各地を巡回した「The Song of Pedro Costa」展など、映画だけでなく展覧会という形式においても国際的に高い評価を受けてきました。
本展は、コスタ氏が10代の頃に出会い深い影響を受けた、スティーヴィー・ワンダー氏のアルバム『インナーヴィジョンズ (Innervisions)』(1973年)と同名のタイトルを掲げています。音楽を通して社会と個人の関係に迫ろうとしたこのアルバムの精神は、彼の映像制作の方法論とも深く響き合っています。
旧ポルトガル領アフリカのカーボ・ヴェルデから移住し、リスボンのスラム街フォンタイーニャス地区で暮らす女性の過酷な日常を映し出した『ヴァンダの部屋』(2000年)は、日本では2004年に劇場公開され、新たなドキュメンタリー表現として、大きな反響を呼びました。このようにコスタの映画は、暗闇と光の強いコントラストと、静謐かつ緻密な画面構成のなかに、現実の断片をすくい上げ、社会構造に鋭く切り込み、新たな視座を提示してきました。
今回の展示では、ポルトガルで暮らすアフリカ系移民の歴史を照らし出した『ホース・マネー』(2014年)など、コスタ作品において重要な役割を担う、ヴェントゥーラをはじめとする登場人物たちや、彼らが生きる場所に関わる映像作品に加え、東京都写真美術館のコレクションも紹介します。
コスタ氏の映像表現とその背景にある歴史的・社会的文脈に触れることで、「インナーヴィジョンズ」という主題を考察していきます。また、会期中には美術館1階ホールにて、コスタ氏自身が選定した映画を紹介する上映企画「カルトブランシュ」や、代表作の特別上映も予定されています。映画の持つ力とペドロ・コスタの映像世界の奥行きを、新たな角度から体験する貴重な機会となります。
ペドロ・コスタ (Pedro Costa)氏は、1958年、ポルトガル・リスボン生まれ。リスボン大学で歴史と文学を学び、映画学校では詩人・映画監督アントニオ・レイスに師事。1989年の長編デビュー作《血》がヴェネチア国際映画祭で注目を集め、その後《骨》(1997年)や《ヴァンダの部屋》(2000年)で国際的評価を確立。カンヌ国際映画祭やロカルノ国際映画祭など受賞歴多数。《ホース・マネー》(2014年)でロカルノ国際映画祭最優秀監督賞を受賞。《ヴィタリナ》(2019年)はロカルノで金豹賞を受賞。アントン・チェーホフの戯曲『三人姉妹』に着想を得て制作した短編ミュージカル映画《火の娘たち》(2023年)は第76回カンヌ国際映画祭で特別招待作品として上映され、各国で高い評価を得ています。
会期:2025年8月28日(木)~12月7日(日)
会場:東京都写真美術館 3階展示室(map)
開館時間:10:00~18:00 (木・金曜日は20:00まで)
※2025年8月14日~9月26日の木・金曜日はサマーナイトミュージアムのため21:00まで開館
休館日:毎週月曜日 ※月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館
入場料:一般800円
問い合わせ:Tel.03-3280-0099
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